取引先の社長就任が決まって、胡蝶蘭を贈ろうと決めたとき、まず迷うのは「どれを選べば失礼がないか」だと思います。
園芸スタイリスト・ライターの白石彩花です。
就任祝いの胡蝶蘭は、たいてい何十鉢もの中の一鉢として飾られます。
だから見られるのは花の豪華さより、誰からの花か分かるかどうか。
この記事では、受け取る側の部屋で何が起きているかを出発点に、立札、サイズ、届ける日、届いたあとの気づかいまでお話しします。
目次
就任祝いの胡蝶蘭は、なぜ一度にたくさん届くのか
6月下旬は、就任の知らせが一斉に出る時期
上場企業の役員人事は、株主総会と、そのあとの取締役会で正式に決まります。
3月決算の会社が多いので、総会は6月の終わりに集まりがちです。
東京証券取引所の2026年3月期決算会社の定時株主総会開催日の集計結果によると、2026年の集中日は6月26日(金)でした。
集計対象2,142社のうち656社、30.6%がこの1日の開催を予定していました。
就任祝いの花は、その直後の数日間に同じ会社へ、同じような白い大輪の胡蝶蘭として集まってくるわけです。
受け取る側の部屋で起きていること
私は住宅展示場やホテルの植物装飾を仕事にしていて、6月の終わりには企業の受付まわりの花を見に行くことがあります。
ある年に伺った本社では、エレベーターホールから応接室の前まで、胡蝶蘭が2列に並んでいました。
数えたら40鉢近くあって、どれも白で、どれも3本立ちか5本立ちでした。
そのとき受付の方が手にしていたのは、立札の名前を書き写すためのメモ帳でした。
お礼状を出すために、どの会社から届いたかを一鉢ずつ控えていくんです。
花が見事でも、札が読めなければこの作業で手が止まります。
並べられる側から見ると、就任祝いの胡蝶蘭は「名刺の代わり」なんだと、そのとき実感しました。
並んだ胡蝶蘭の中で、目に留まるのは立札
花の下の札は、並ぶと見えなくなる
立札には、鉢の根元に挿す「花下」と、花の上に見えるように付ける「花上」があります。
1鉢だけで飾るなら花下でも十分読めます。
でも廊下に何十鉢も並ぶと、手前の鉢の花や葉で、奥の鉢の根元はほとんど隠れてしまいます。
大輪の3本立ち以上を贈るなら、花上の立札を選んでおくと安心です。
受付の方がメモを取るときも、しゃがんで葉をかき分けずに済みます。
札の素材は、改まったお祝いなら木札がいちばん格好がつきます。
書くのは3つだけでいい
就任祝いの立札に入れるのは、頭書き、贈り先、贈り主の3つです。
伝えたい気持ちが大きいほど言葉を足したくなりますが、札の文字が増えるほど、遠くからは読めなくなります。
| 書く場所 | 例 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 頭書き | 祝 御就任/祝 社長御就任 | 「御祝」だけだと何のお祝いか伝わりにくい |
| 贈り先 | 株式会社〇〇 代表取締役社長 〇〇〇〇様 | 新しい役職だけを書く |
| 贈り主 | 株式会社△△ 代表取締役 △△△△ | 連名は役職が上の方から |
迷ったら「祝 御就任」にしておけば、たいていの場面で使えます。
4人以上の連名になるときは、代表者の名前に「一同」を添えたり「〇〇部一同」としたりして、札に収まる長さにまとめます。
名前の誤りは、花の美しさでは取り返せない
並んだ立札は、受付の方や秘書の方が一枚ずつ読んでいきます。
だからこそ、社名の「(株)」の省略や、旧社名のまま、役職の書き違いは目立ちます。
社名は略さず正式名称で、名前のあとには必ず「様」を付けてください。
前任の方の名前を札に入れるのも避けたいところです。
「前任の〇〇様にもお世話になりました」という気持ちは、立札ではなくメッセージカードに書きます。
書き方の見本は、就任祝いの立札ガイド(フラワースミスギフト)に10パターンの記入例がまとまっています。
会長と社長が同時に就任した場合や、英語表記の社名の場合、グループ会社の連名など、迷いやすいケースまで載っているので、注文フォームに文字を打ち込む前に一度見ておくと安心です。
一鉢の大きさと色は「置かれる場所」から考える
本数が多いほど目立つわけではない
取引先の社長就任なら、大輪の3本立ちから5本立ちあたりがよく選ばれる大きさです。
7本立ちや10本立ちは迫力がありますが、置き場所の幅が足りないと、廊下の端や別室に回されることもあります。
装飾の仕事をしていると、鉢の大きさを決めるのは贈る側の予算より、受け取る側の床の広さだと感じます。
本社の受付が広いのか、こぢんまりした社長室に届くのか、分かる範囲で想像してみてください。
届け先が支社や事業所なら、本社より置き場所が限られていると考えておいたほうが無難です。
白が並ぶ部屋で、リップの色が効くことがある
就任祝いの胡蝶蘭は白が基本で、まず間違いがありません。
ただ、40鉢の白が並んだ廊下で私の目が止まったのは、花の中心だけが赤い「赤リップ」の鉢でした。
花全体は白なので改まった場にもなじみますし、近くで見たときに少しだけ印象が残ります。
ピンクの胡蝶蘭は華やかでやわらかい雰囲気になるので、親しい間柄で贈るときや、明るい雰囲気の会社に向いています。
最近は企業カラーに合わせた色の胡蝶蘭を扱うお店もあります。
ただ相手の社風が分からないうちは、白か赤リップを選んでおくのが安心です。
届ける日で、印象はかなり変わる
就任当日から1週間以内が目安
届ける時期は、日本郵便の就任に贈る祝電の書き方と文例が目安になります。
就任式がある会社の場合は式の当日までに、就任式がない場合は就任当日から1週間以内を目安に会社へ送る、とされています。
祝電についての案内ですが、胡蝶蘭も同じ考え方で手配して問題ありません。
株主総会で選任される役員の場合、総会が終わるまでは就任が確定していません。
内示を聞いていても、総会前に花が届くのは先走りすぎです。
人事の公表を確認してから手配するのが落ち着いた順番です。
集中日の当日は、受付がいちばん忙しい
これは私の経験からの話ですが、総会当日やその翌朝は、花屋さんの配送車が同じビルに何台も来ます。
受付の方は来客対応と花の受け取りを同時にこなしていて、置き場所の割り振りにも追われています。
急ぐ理由がなければ、1週間の範囲で少し落ち着いた日を指定するのも気づかいのひとつです。
先に届いた花が並んだあとなので、置き場所を決めてもらいやすく、立札もゆっくり読んでもらえます。
注文する前に確かめておきたいこと
会社によっては、就任祝いの花やお祝いの品を辞退する方針を出していることがあります。
相手の会社のホームページやお知らせに辞退の案内が出ていないか、担当の方に一言確かめておくと安心です。
あわせて、届け先が本社なのか就任先の別会社なのか、受け取りできる曜日や時間帯もここで確認しておきます。
届いたあと、長く飾ってもらえる一鉢にするために
受け取った側が困るのは、水やりと置き場所
就任祝いの胡蝶蘭は、総務や秘書の方がお世話をすることが多く、植物に詳しい方ばかりではありません。
よかれと思って毎日お水をあげてしまい、根腐れで一鉢だけ早く弱っていく様子を、私は何度も見てきました。
NHK出版のみんなの趣味の園芸「コチョウラン(胡蝶蘭)の育て方・栽培方法」では、水は与えるときにたっぷり与え、次は植え込み材料がやや乾くまで待つように書かれています。
強い日光を嫌い、やや暖かめ(18℃以上)を好む植物なので、窓際の直射日光やエアコンの風が当たる場所は避けたいところです。
花が終わったあとの花茎の切り方まで載っているので、受け取った方にこのページを紹介するのもひとつの方法です。
手入れのメモを一枚添える
私が贈る側に回るときは、メッセージカードとは別に、手入れのメモを小さく添えるようにしています。
長い説明はいりません。
受け取った方が見て、その日から迷わない程度で十分です。
たとえば、こんな文面です。
水やりは、鉢の中の水苔が乾いてから。目安は10日に1回ほどで、冬はもっと間をあけて大丈夫です。
直射日光とエアコンの風が当たらない場所に置いていただくと、花が長く持ちます。
40鉢の中の一鉢でも、このメモがあると「あの会社の花は最後まできれいだった」と覚えてもらえることがあります。
立札が入口だとしたら、手入れのメモは出口の気づかいです。
まとめ
就任祝いの胡蝶蘭は、贈った瞬間より、並べられてからのほうが長く人の目に触れます。
押さえておきたいのは次のことです。
- 立札は花上にして、頭書き・贈り先・贈り主の3つに絞る
- 社名と役職は正式名称で、前任の方の名前は書かない
- 大きさは、受け取る側の置き場所から考える
- 届けるのは就任当日から1週間以内、辞退の方針も先に確かめる
- 手入れのメモを一枚添える
私が見た40鉢の廊下で、受付の方がメモを取りながら「この札は見やすいですね」とつぶやいた一鉢がありました。
豪華さでいえば中くらいの5本立ちでしたが、花の上の木札に、社名と名前がすっきり書かれていました。
贈る花を選ぶとき、その一鉢が並んだときの姿を少しだけ想像してみてください。



